自国の文化を知ること
家業を継ぐ
山本晃久(やまもと あきひさ)です。誕生日は1975年12月14日です。出身は京都です。この仕事は祖父が三代目で、僕で五代目になります。
僕の場合は大学生の時アルバイトで家の仕事を手伝ってて、この仕事おもしろいな、っていうので、そのまま家の仕事をやることにしたんですけど。家の仕事手伝うまでは、あんまり何の仕事してるかはっきり知らなかったですよね。工場とか、職人やなっていうのは分かってましたけどね。当時は伝統工芸とかそういうものに興味がなかったので、工場やなっていうぐらいの感じで、鏡を制作してたのは知らなかったですよね。
―大学時代、アルバイトで家業を手伝っていた。職人の仕事を間近に見る中で、職人の仕事量の変化を肌で感じていた。
大学の4年の間で、アルバイトで家の仕事を手伝いに行ってたら、それまで割とずっと遅くまで働いてた職人さんが、だんだん普通の時間に帰られるようになってきてるな、とかっていうのは分かるじゃないですか。まあ職人さんも暇になってきてるんやろうなっていうか。「この仕事面白いけど、本職としてやったら将来食べていかれへんかもしれんな」と思って。
それやったら他の仕事も選択肢に入れようかなというので、就活をちょっとだけしてたんですよ。僕らのときは氷河期やったんでね。どこ行っても安定がないなって感じやったんですよね。仕事が暇になって、生活できひん可能性もあるなと思って。別にやりたくもないことをやって失敗するんやったら、やりたいことをやって失敗した方がいいなと思って。
鏡
―和鏡は、鋳型に金属を流し込むことで、鋳物を作り、それを削り、そして磨くことによって鏡に仕上げる。
砂と粘土で鋳型 [1] を作るんですよ。粘土を削るっていうかね、へこましていくっていう感じで鋳型を作る。どうしても砂と粘土なので、潰れちゃうんでね。それをしないようにゆっくりゆっくりやっていかないとダメなんですよ。鋳型を作ったら、その中に錫と銅を溶かして流し込む。それを研いだら光るっていうか。まず削って、研いで、磨いて、最後光らす。表面にニッケルでコーティングしてあるんです。オリジナルで一から型を作ろうと思ったら1ヶ月から2ヶ月くらい。模様がない型から、こういう模様をつけていく作業をやっていきますね。
[1] 溶かした金属を型に流し込み冷やして固めた製品(鋳物)を作るための型
身体
―職人の仕事は身体を使う。
大学の間は友達とサッカーをやってました。最近までやってましたね。サッカーっていうか、まあね、そんなかっちりしたやつじゃないですけど、たまに集まってやってっていう。膝ちょっと、今ね、けがしてやってないですけど。
今はテニスをやってます。生涯スポーツとして違うスポーツをやりたいな、と思ってて、テニスはまあまあ60ぐらいまではできるだろうと思ったんですけど。テニスはね、もともと職人仲間の先輩らがやってはって。まあこの仕事は結構姿勢が固まるんでね。運動はした方がいいなと思ってて。腰曲げての仕事なんでね。
―技術が向上すると同時に、身体との衰えとも向き合う。
もちろん技術は向上するのもありますし、経験が増えていくとできる幅も、知識も増えていきますし。ただ、肉体的にやっぱり衰えていくのはありますよね。目がちょっと見えにくくなったり。その辺のバランスはやっぱり大事ですよね。経験とかそういうのでカバーしていかないと。肉体は衰えていく一方ですからね。年齢が重なるとどんどん衰えていくので。集中力も若い頃ほどは持たなくなりますしね。もちろん集中できる時間の長さとか、パワーも落ちますし。夜遅くまで仕事してたら次の日しんどかったりとか。もともとの体力の部分も落ちますし。目も絶対良くなることはないじゃないですか。悪くなる一方なんでね。
技術
―新しく型を制作する機会は減ってきている。
型を作る技術を習得するには、たぶん、10年くらいはかかりますよね。仕事が年に数回あったら、そのたんびに練習して経験を積めるんですけど。今はこういう仕事がなかなかないんでね。
型を新しく製作することは、年間1回とか、何年間に1回とか。昔はもっと数を作ってて、いろんな経験を積む機会がたくさんあったと思うんですよね。それだけ仕事があるってことは、必然と修行しますよね。今は、仕事があるかないか分からへんのに、10年かけてこの技術を習得しようってなかなか難しいですしね。だから必要な技術だけは残していかないといけないですし。10年間も訓練だけしないといけない。10年間訓練して、じゃあどんだけ仕事が来るのか、ってなった時に、数年間に1回しかこないようではなかなか難しいですよね。
そうやって技術ってなくなっていくんやと思うんですよ。結局、僕らでもそうですけど、必要がないことに投資できないじゃないですか。これいるなと思うから投資するわけで、僕の場合は親子なんで、親は息子に対して投資はまだできますけど、もし、他人にこれを10年間、給料払って教えられるかっていうのは難しいですよね。この先10年、この仕事があるかどうかもわからないので。投資って基本、それを回収できる目処があるからするわけで。そんなに需要がないことに対して投資してできないですよね。
需要がない技術って絶対なくなっていきますからね。需要をどうやって生んでいくかっていうのが大事じゃないかなと思うんですけどね。例えば生活で必要なものであれば需要って必然的に生まれるじゃないですか。でもなかなかこういう工芸のものって、需要に結びつかないので。工芸でも器とかは、普段の生活で料理するときとか、お花を生けるとき使うじゃないですか。こういうのは神社に収める鏡とかになってくるので、知ってる人も少ないですし。それが使われる場面もなかなか知らない人も多いだろうし。要は、それをしようと思ったら、神社がお金を集められないとなかなか難しいですし。
需要もないけど、誰もこういうことを知らないから、こういう仕事がなくなっている。それを知ったら自分たちが行っている神社で、もし鏡を作るタイミングがあればこういう鏡を作ってみたいな、と思う人たちもいるかもしれないので、まず知ってもらう、選択肢に入れてもらうというのが一番重要じゃないかな。結局お金が集まらないからできないというのは、しょうがないと思うんですけど、選択肢に入るか入らないか、知ってもらうか知ってもらえないか、それで、だいぶ違うと思うので、まず知ってもらって選択肢に入れてもらうと。その次が、選んでもらうという段階になると思うので。まず選択肢に入ってない限り選ばれないんです。認知度を上げるというのは重要じゃないですかね。
日本人
日本では新嘗祭 [2] 、毎年11月23日全国の神社で行われる収穫祭があるんですけど。やっぱり、みんなハロウィンを知ってて新嘗祭を知らんっていうのは、やっぱり日本人としてはなんか…。同じ秋の時期に日本の収穫祭があるにもかかわらず、みんなはハロウィンでコスプレして楽しむっていうことやってるんですけど。新嘗祭を知ってる上で、「コスプレが楽しいからやってる」っていったらいいんですけど、みんな新嘗祭のことを知らないじゃないですか。ハロウィンが悪いとかじゃなくて、ハロウィンは楽しいからやるけど、新嘗祭っていうのもちゃんと知ってる、っていうのはやっぱり大事なんじゃないかなと思うんですよね。海外の収穫祭だけ知ってて、日本の収穫祭を知らないっていうのは日本人としてちょっとやっぱり…。日本人がもうちょっと日本のことを知らないとね、やっぱりそういう文化は残っていかないんじゃないかなと思いますけどね。特に今、海外の人が日本にいっぱい来る中で、向こうの人の方が日本のこと知ってたりするじゃないですか。
結局そういう文化を日本人が知ってる、っていう土壌があって、最終的に僕らのところに仕事は来るので。新嘗祭もみんな知らない中で、神社が盛り上がるはずがないじゃないですか。だからやっぱり結局僕らが努力したところで、そこは、なかなかどうにもならないっていうか。僕たちがいちいち新嘗祭とかみんなに教えていくわけにはいかないので。
欧米とか、K-POPとかに対しての憧れだけではなくて、やっぱ日本を知ってから、諸外国の文化とかをインプットをしないと、単に何もないところにインプットしているだけなので、軸っていうのがあんまないですよね。日本人としての軸があっていろんな文化とか知識を経験を入れていく方が、多分もっといろんな人と話ができるようになると思うんですよね。
[2] 新嘗祭(にいなめさい)。毎年11月23日に行われる、その年の収穫を神に感謝する祭り
社会との関わり
―伝統的なものづくりも、テクノロジーを用いたものづくりも共通する部分がある。
自分たちのものづくりをする人の基本は、自分の技術とか仕事で社会に関わっていくか、暮らしをよくしていくか。ハイテクの人は自分たちのテクノロジーを使って社会に関わっていって、暮らしをよくしていく。僕らの場合はアナログのものづくりで、人々の思いがどんどん集まるものを作って社会と関わっていく、っていう方法でやってるっていう。作ってるものが違うくても、ハイテクの人たちも、自分たちの仕事でどうやって社会に関わっていくか、という点で根本にあるものづくりの考え方は一緒じゃないかなと思ってます。
やっぱりね、儲けっていうことを最重要にするのではなくて、社会に対してどういう風に関わっていくか、っていうのが、結構重要じゃないかなと思ってますけどね。
聞き手 | 木下 快
2025.6.4
職人図書で掲載している聞き書きは、話し手と聞き手との対話から構成されたものです。語られた経験や価値観、そのときどきの思いを、できるかぎりそのままの形で伝えるよう努めています。記述は語り手と聞き手それぞれの視点に基づいているため、歴史的な事実や一般的な見解とは必ずしも一致しない場合があります。
山本合金製作所は、和鏡やご神鏡などを一つひとつ手仕事で仕上げる京都の工房です。鏡制作の主な工程、「鋳造」「削り」「研ぎ」を一貫して行い、それぞれの工程を熟練の職人が担っています。